総退却 その1
昔読んだことのある本を再読していて、「あ、こんなことが書いてあったのか」と気づくことがよくあります。こちらも人生経験を少しは積んできたことから、書かれていることに共感できるようになったということもあるかもしれません。「シェークスピアなんてその最たるもの!年を取って、読み返すたびに新たな発見ばかっり!!」と管理人の師匠が以前話して聞かせてくれました。
ところで、最近、庄司薫という作家の「狼なんか怖くない」という本を読んでいました。20代の頃読んだ本ですが、30年もして戸棚から出してきて再読。そしたらその中に書かれていた「総退却」という言葉に目を留めます。
庄司さんは学生時代に福田章二という名前(本名)で「喪失」という小説を書き、中央公論新人賞を受賞。ところが、その後、2編の小説を書き「喪失」として出版した後、何も書かず10年。今度はいきなり「赤頭巾ちゃん気をつけて」を出してベストセラーに。さらに「黒、白、青」の色のついた4部作と数冊を出した後、再び沈黙を守って現在にいたっています。
この沈黙状態。これが長い間不思議でした。噂によると、書道をやったり財テクをなさって、元気だということですが、表舞台には出ていらっしゃらない。奥様は有名なピアニスト、中村紘子さんです。
さて、その「狼なんかこわくない」ですが、庄司さんがなぜ最初の沈黙に至ったかが説明されていて、そこに計画的な小説からの「総退却」という言葉がでてきたんです。
そう。彼ははじめから小説を書いたら、そこから別の方向に進むことを決めていたというのです。
理由は、彼自身が様々なことに興味を持つ性格だからとのことでした。
最初の沈黙、それは彼が学生時代ですから、当然、学業に専念するということも含まれています。これはこれでわかるのですが、2度目の総退却。これは本書に説明されていない以上、想像でしか語れません。
が、人間が大きく考え方を変えることはあまりないですから、最初の総退却と同じく、人生にもっとほかの興味が出たからというのが素直な見方じゃないでしょうか。そして、彼の場合、それを許すだけの、つまり生活するだけの余裕&能力があったということでしょう。
うらやましいですねぇ…。
実は管理人、思うところがあってこの言葉に敏感に反応しちゃったのですが、続きは次回。